■意味も無く走ったわけじゃあないんですよ■



 私は仕事をしていた。

 得意先に到着して車から降りたその時、

 前方から後ろに3歳くらいの男の子を乗せた母親の自転車が近づいていたのを私は確認していた。

 さて、仕事でもするか。

 その子供を乗せた母親の自転車とちょうどすれ違ったその時、

 カランと何かが落ちた音がした。

 私がふとアスファルトの地面に目をやるとそこには銀色に輝く小さな車の玩具、

 そう、

 世間一般に言う 「ミニカー」 という物が地面に落ちていた。



 ん?



 不意に私は思った。



 まさか・・・・



 過ぎ去って行く自転車を見ると後ろに乗っている3歳くらいの男の子がこちらを見ている。

 私の事と地面を交互に見ている。

 とても寂しそうに。

 凄く切ない表情だった。

 まるで幼くして母親と引き離される子供が最後にじっと母親を見送るような表情にも見えた。



 そうか、これを落としたのか・・・。



 男の子を乗せた自転車は見る見るうちに遠ざかっていく。

 母親は後ろに乗っている我が子がミニカーを落とした事に全く気がついていない様子だ。



 ちっ・・・、しょうがねぇな・・・・。



 私はミニカーを男の子に届けてあげようと思いミニカーを地面から拾うと再び遠ざかる自転車を見た。

 すげぇ勢いで遠ざかっていく自転車。

 くっ・・・。





 上等じゃねぇかコノヤロウ




 このまるお様のミラクルダッシュから逃れられると思うなよ。






 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!






 私は走りました。

 ホノルルマラソン完走という華々しい経歴を持つこのまるお様の脚力に恐れ慄くがいいって言うか、

 嘘です。

 私パスポートも持ってませんので。




 フハハ!!





 これが世界のトップランナーの走りだっ!!(大嘘)




 しばらくして私のミラクルランの甲斐もありようやく自転車は射程範囲に入った模様。

 今だ!今しかねぇっ!!






 すいませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!!





 しかし、しかしだ!

 どうやら声はその母親に届いていないようだ。

 ぬおおおおおおおっ!!

 ちょっとー!!





 すいませぇぇぇぇぇぇんっ!!(って言ってんだろうがゴルァ!)




 ハァハァ・・・・ぜぇぜぇ・・・・・・っ!!





 馬鹿野郎!!!





 この暑い中俺をこんなに走らせやがって(怒)





 すいませぇぇぇぇぇんってばぁぁぁぁぁぁぁっ!!!




 すると母親がやっと私に気がつきました。

 遅い、遅いよ。

 もっと早く気がつきたまえ。




 まるお:これ、落としましたよ。

 そして私は男の子にミニカーを手渡した。


 母親:あ、どうもすみません。

 まるお:フハハ。人として当然の事をしたまでです。

 母親:まあ、なんて素敵なお方・・・。

 まるお:では私はこれで失礼します。

 母親:あ・・・、せめてお名前だけでも。

 まるお:いえいえ、名乗るほどの者ではありません。

 母親:まあ、つくづく素敵なお方・・・・・。




 と、いうような心温まる(体も温まりましたが)出来事が本日ありました。

 最後に、ミニカーを渡してあげた時の男の子は嬉しそうな顔をしていた事を付け加えておきます。



 じゃ、また!




 戻る